36.7度の誘惑

あ、けんちゃあん!といつもの3割増しでデカい声がニコニコと笑いながら私に手を振る。
…髙羽が飲んだくれてるから回収してくれや。先輩からそんな連絡を受けて居酒屋に向かうとこのザマだ。
「すみません、回収しまーす」
「おう、持って帰れ」
「んー?けんじゃくぅ、…かえる?」
「帰るよ」
ふらつく酔っ払いをタクシーに押し込み、私の家の住所を告げる。

「えへへぇ、けんじゃく〜…」
ソファに下ろし、ペットボトルを渡して隣に腰掛けると首元にぎゅっと抱きついてくる。
髙羽からキスをしようとして、真っ赤な顔で困ったように止まった。ややあって、ちゅ、と軽い音を立てて髙羽が私の額に口付ける。
「………ん、よし」
満足げに緩んだ頬を片手で引っ掴んで深く口付ける。酒臭く…ない?いや、酒の味はするが泥酔しているにしては、
「…ぁ、おれ、酔い回っちゃったから、」
「何杯飲んだ?」
「え、えっと、わかんね」
「可愛く言っても無駄だよ、…酔い、醒めてるでしよ」
「………だって、きてくれてうれしかったから、つい」
泥酔は嘘にしても、酔っているというのはあながち嘘でもないのかもしれない。いつになく素直な言葉に上目遣い。…いや、可愛いな。35のゴツい中年男性が惚れた欲目で可愛く見える。
「で?ほんとはどこまでしたいの」
「え、あ、いや…」
「さっきのキスもほんとは口だったでしょ」
「………言わなきゃ、わかんねえ?」
「今日はとことん甘えただね」
「…ん」
ソファにそっと押し倒す。
「オマエに触られんの、きもちよくて、すき…」
キスの合間に囁かれ、理性が揺らぐ。…こっちは仮にも酔っ払い相手に加減してるの、理解してる?
おまけに普段押し殺しがちな声まで聞かされて、今すぐぶち込みたいのを我慢してる私、超偉いかも。
シャツを捲り上げ、乳首を軽く爪で引っ掻くと甘い声が上がる。
「っひ、ゃ……」
「かわいいね」
「…くはない、だろ…」
「いや?可愛いよ、大の大人が情けなくて」
「褒めてねえな?」
「褒めてる褒めてる……乳首、弱くなったね」
べろりと舐め上げると背中を反らせて感じ入る。
「んぅっ…♡ぅ、るせ…誰のせいだと」
「私のせいだね」
「衣装着る時絆創膏貼ってんだからな…」
「エッロ」
片方とはいえ乳首に絆創膏貼って目立たなくしてんの?半裸のくせにエロネタは極力避けようとする隠れ真面目なこの男が?いやー、無自覚にエッロくなったね、育てて良かった。
「このエロ乳首、あんまり出してたらそろそろ誰かにバレちゃうかもね」
「…キモイだけだろ」
「そう?君をそういう目で見てる奴結構いると思うけど」
「ねえよ、んな物好き」
「私も?」
「物好きの中の物好きって感じ?」
「否定はしないけど」
「しとけよそこは」
なんて話しつつズボンを脱がす。
「…洗ってねえから今日は前だけ…」
「そんなんで足りんの、君」
「たりねえ、けど…でももう洗うのだりぃ…このままくっついて寝たい…」
「好きにして、って言ってくれないの」
唇をなぞるとくすぐったそうに笑う。
「前それしたらひでえめに遭ったもん」
確かに好き勝手したけどさ。
「史彦はさ、私に抱かれたくない?」
「それずりぃよ」
ちゅ、と触れるだけのキス。
「…いいよ、抱いても。気持ち良すぎて寝たらすまん」

洗浄を終え、ベッドに押し倒すと、まだぽやんとした顔の髙羽がぽつりと呟く。
「…オマエに洗ってもらうとさぁ、なんか、ウンコするのすら気持ち良くて困る…」
「ええ?だから最近やらせてくんないんだ」
「ん…だってこれ以上俺の体変になるのやだもん」
「これ以上、って今どうなってんの」
「乳首、…はなんか前よりデカくなった?し、チンコより正直ケツのが気持ちいいっつーか、オマエに触られる方がイイ、し…抱きしめられるとたまにヤってる最中のこと思い出してぞわっとするし、この前はなんか、その、声だけでイった、し……」
「…………」
「…羂索?やっぱ引いた、よな…?」
「引くどころか私の努力が実ったなぁって喜んでるよ今」
寝ている髙羽の乳首を開発したりセックスの最中にこれは気持ちいいことだと刷り込んだ甲斐があった。…どこまでアブノーマルなプレイができるのか興味はあるが、今日はひたすら髙羽を甘やかしたい。

いつもより丁寧に舐めていると目線を感じたので咥えたまま髙羽の方を見る。
「どしたの」
「ん、ん…っ、俺も舐めたい…」
「はは、積極的だね」
「ん、ぅ…」
69の体勢になると、すでに緩く勃ちあがったちんこが熱い口内にぱくりと飲み込まれた。

静かな部屋に2人分の水音と髙羽の押し殺したような喘ぎ声が響く。
「っん、ぅ……ん、もぉ、イっ……」
「このままイっていいよ」
「ふ、ぁ、ああっ………っく、ぅ……!」
「…ごちそうさま」
精液を飲み込み、体勢を戻そうとすると服を軽く掴まれる。
「ん、ぁ………お、オマエも」
「ん?いいよ私は。…こっちでイかせて?」
トントン、とアナルに触れると期待したようにひくついた。
「………けんじゃく、…っ」
「…絶景だね」
脚を抱え、くぱぁと自ら穴を拡げて私を誘う。
誘われるままに押し倒し、柔らかなアナルにくぷりと挿入する。
「ん、ぁっ!あ、あっ………けんじゃく、っ…」
髙羽が足を絡めて抱きついてくる。そのまま口付けようとして、そういえばさっき髙羽のを飲んだっけ、と思い出す。リビングから持ってきた未開封のペットボトルを一口飲んでから深く口付けた。

私が初めてだと恥ずかしそうに告げた頃から比べると抱かれることにも慣れ、奥までみっちりと私を咥え込めるようになった。そう褒めると中がぎゅうっと締まる。
「こうしてぴったりくっついて奥いじめられるの、好きだよね」
「ふ、ぁ、ッ…耳元で、しゃべんな…」
「ああそうか耳も弱いんだ、君」
耳朶を舌でなぞり、わざとリップ音を立ててキスをする。奥をぐりぐりと刺激すると抱きしめた体がぶるりと震えた。
「ひ、っ…♡ぁ、あっ…ん、ぅっ…あ、それすき、っ…なか、でイきそ、っ…うぁ、あ…っ!」
出さずに達したばかりのナカがもっといじめてほしいとうねり、絡みつく。ゆっくりと引き抜き、前立腺を抉るようにじわじわと突き入れると腹が髙羽の吐き出した精液で濡れる。
「あーあ、シャツべったべただ」
「ぅ、あ、ごめ、けんちゃ、…っ、なぁ、さっきのとこ、奥、もっかい…♡」
「こう?」
おそらく激しく突かれたいのだろう。そうわかっていながらあえて緩く突くと不満げに声を漏らす。
「ん、ちが、っ…もっと、オマエのすきにして…っ、はげしく、して……」
念願のお許しに思わず舌なめずりをする。
「あーあ、今日は甘やかしてあげるつもりだったんだけど、なっ!」
「っあ、あー……っ♡きたぁっ……♡」
体重をかけるようにしてぐっと奥を抉る。
「ん、ぁ!あっ、あぅ、ぁ、あっ………!」
ぷしゃっと潮を吹いたちんこを片手で探り、先を刺激してやると泣きそうにしゃくりあげた。
「ぁ、あ!っ、またイっ、や、漏らす、っ…」
「もう漏らしてるってば」
「ちが、しっこ、や、トイレ……っ」
どうせもう汚してるから漏らしてもいいんだけど。そう思いつつ、流石に防水シーツもペットシーツも敷いていないベッドで漏らすのは髙羽が本気で泣きそうなので挿入したまま抱き抱え、トイレに連れて行ってやる。
「ほら髙羽、しーってしな」
一度引き抜き、後ろから抱きなおして排尿を促すといやいやと頭を振る。
「ひ、ぁ………腹押すな、ばか、やだ、こんなガキみてえな…っ、あ♡あーー…っ、は、ぁっ……」
「酒飲んでたから沢山出たね」
「っ言うなバカ………」
「このまま風呂でシてもいいんだけど、ベッドとどっちがいい?」
「…ベッド、で…その、めちゃくちゃに、されたい……っうわ!おま、まだデカくなっ…」
「なるでしょ、そりゃ。ふーん、へえ、髙羽は私に本気の種付けプレスでザーメンたっぷり中出しされてめちゃくちゃにされたいんだ」
「…………」
「髙羽?」
「…だよ」
「ん?」
「そう、だって、言ってんの……」
あーもう、潮も出なくなるまでイかせよう。トんでも構わず一滴残らず中出しする。
「言質取ったから。あとで泣き言言わないでよね」
「…ん」

有言実行。ベッドで何度も奥に種を吐き出し、失神しても構わず犯すように抱いた。シーツを洗濯機に放り込むと、全身に噛み跡とキスマークをつけられくたりと眠る髙羽を抱えて風呂に向かう。前髪を下ろすと思いの外幼いところも、セックスの最中は甘えてくるのも、どこがどう弱いのかも、全部全部、余さず私だけのものだ。
「…私がこれだけ執着するの、本当に珍しいんだからね」
抱き抱えられたまま湯船で眠る髙羽に、責任とってよね、と囁くようにキスをするとぼんやりと目を開く。
「…ん、ぅ……けん、けんじゃく…」
「ん?なに?」
「…おれをおいてくなよ」
「…君もね」
「じゃあおれがしぬとき、オマエもつれてく…」
「へえ、縛り?」
「…?わかんね、けど…それでいい」
「君となら一蓮托生も悪くないかもね」
眠たそうな目のまま、髙羽が触れるだけのキスをする。ふたりきりの約束だ。否、約束よりももっと重い「縛り」。…君が死ぬ時私を連れて行くのなら、私は魂ごと君を縛って、次のまた次、もっと先までけして離さない。『面白いと思ったことをやり尽くすまで』、いや、君とならその果てまでも行けるんじゃないかとすら思っている私がいる。
「…本当、君って面白いよね」
丁寧に互いの身を清め、ベッドに戻る。
…明日は何をしようか。君と出会ってから、そんなことばかり考えている。素面の君にもう一度風呂場での会話を伝えたらどんな顔をするだろう。ああ、明日はそれからやろう。わくわくした気持ちで髙羽を抱いて瞼を閉じる。

ややあって、もぞりと髙羽が身じろぎする。
「………けん、ねてる、よな…?………あ、あい、…っ、あー、っ…俺の相方になってくれて、ありがとな」
「…ねえ、それ私が本当に寝てたらどうするの」
「んわぁっ!?!!」
「愛してる、ってちゃんと言って」
「………あい、してる、…と、おもう」
「思う?」
「だ、って、こんな、初めてだし、好きじゃ足りないの……愛おしい?みたいな、勿論相方として好きなんだけどそれだけじゃなくて、…だから、たぶん、愛し、て……っ、オマエ!は!どうなんだよ…いやさっきなんとなく聞いてたけど、っ…オマエも、ちゃんと言えよ」
「私も愛してるよ」
「…………っ、おう」
「もっとなんかないの?私が愛まで語ってるんだけど」
「……面白いって思ったこと、やり尽くそうな。俺たちで」
「当然でしょ、あ、そうだ、君の魂は死んでも離さないことにしたから。私の縛り。さっき決めた」
「え、そんなことできんの」
「ちなみに君も縛り設けてたからね、死ぬ時はちゃんと私を連れて行きなよ」
「できっかなあ!?」
「できるかなじゃなくてするんだよ」
「ぜ、善処、する」
「……じゃ、おやすみ」
「…おやすみ」
髙羽を抱き直し、今度こそ目を閉じる。どくどくとまだ少し早い互いの鼓動が心地良くて、夢も見ないくらい深い眠りに引き込まれて行った。

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