20250713無配_蚊帳ックス

──あつくて、とけそうな夜だった。

真夏にも関わらずエアコンがぶっ壊れた髙羽の部屋に持ってきた蚊帳を広げ、じゃんけんで勝った順に風呂に入ったらこれまた私が持ってきた甚平を着て、帳の中で扇風機の風に当たりながらビールなんか飲んでいる。

2缶ほど飲んでほろ酔いの髙羽がぱたぱたとゆるく団扇で仰ぐたびに胸元がのぞく。我ながら完璧な見立てだった甚平からのぞく乳首に股間が反応を示す。
ねえ、据え膳ならいただくけど?
そう言うとぱちぱちと目を瞬かせてふっと笑う。空になったビールの缶を置き、私の首に腕を絡めて布団へ誘った。
…開け放した窓から入ってくる暑い夜の匂いと扇風機の音、そして目の前の汗ばむ肌に、私は理性を手放した。

 

「ん゛ぅ、ちゅっ…ぷは、キス、しつこい…」
「良いでしょ、キス大好きな癖に」
「そ、れは…そう、だけど」
「じゃあ問題ないね、…舌出して」
「っあ……」
深く絡められる舌が気持ちよくて、頭がぼんやりする。いや、熱中症とか酸欠気味とかなんじゃねえかな、とどこか冷静に考える自分と、恋人兼相方とのキスに酔いしれる自分がいる。

こたつを押しやって無理やり作ったスペースに蚊帳を置いたので、見慣れた自分の部屋なのにどこか違うような錯覚と、見慣れない黒い蚊帳と顔を隠すように垂れる黒い長い髪が、羂索の、…領域?とかいうやつにいたらこんな感じなのかななんて見当違いだろう感想が浮かんできて、しばらくこのままコイツとここで過ごすのも悪くねえかな、なんてぼんやり思う。
…互いの息遣いと扇風機の音、微かな車の音しか聞こえないような空間にいると本当に世界に2人きりになったような、そんな気がした。

…中に入ったままのそれはまだ熱を持っている。すでに何度も達していて気怠いが、今日くらいはいいか、と締め付けて煽る。そもそも酔ったフリで(あ、いやある程度酔ってはいたけど)寄りかかってみたり団扇で胸チラなんかして誘ったの、俺だし。
顔を引き寄せて額の傷に口付けるとたちまち中で硬くなって、ちょっと笑ってしまう。
そんなに抱き潰されたいんだ、なんて珍しく余裕なく言う相方にキスで答える。

「ん、あ♡あ、あ゛ッ…♡」
「たかば、ッ…」

ピンチャンでも、呪術師と呪詛師でもなくて、ただの恋人としての時間は最近なかなか取れていなくて、それが実際寂しくなかったかといえば嘘になる。でもそれだけピンチャンとしての仕事が忙しいというのは正直嬉しくもあって、だからこそ素直に甘えられずにいた。…俺の相方はそれも見越して今日こうやって蚊帳なんて持ってきたんだろうか。たまたま見つけただけかもしんないけど。…多分コイツがこんなことすんの、今は俺だけなんだろうなあなんて考えると優越感と幸福感がじわじわと高まってきて、目の前の恋人にぎゅっと抱きついた。

 

手放した理性が朧げに戻ってくる頃にはだいぶ加減なく抱いていたようで、真っ赤な顔で蕩けた表情の髙羽がこちらを見ていた。え、なに、今日の髙羽、ずっと可愛いんだけど。満たされてます、と術式なしでも丸わかりの表情にこちらまで満たされたような気持ちになる。いや、ようなじゃなく満たされている。…呪詛師を辞めたつもりはさらさらないが、人並みの幸せ、なんてものをこの私が感じるとはね。
まさかゴツい筋肉質の男相手に愛してるよ、なんて自然と口をついて出てくる日が来るとは思ってもみなかった。
涙目の恋人がぎゅっと目をつぶり、キス…ともいえないような、ぶつかるような勢いでキスをする。夏の暑さのせいか、このままこの帳の中に閉じ込めたいとすら思うが彼の輝きはそれでは活かされない。
私たちの面白いをどこまでも突き詰めて、試して。そうして二人で何年も、何十年も、何百年も遊びつづけよう。抱きしめて、繋がったままごろりと横になる。
「…あ、あの」
「なに?」
「これはこれで全然いいんだけど、その、あの、はいりっぱなしだとその」
「…へええええ、足りないんだ」
「にやっとすんな!足りねえっていうかもどかしいから抜い…」
「今日は散々抱いたからこのままゆるパコ寝落ちでもいいかなと思ったんだけど。君が望むなら仕方ないよね」
「あっ羂索さん?目がマジで、いや、もうじゅうぶっ………あッ、ん!」
「あつい夜を過ごそうね、髙羽♡」

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